東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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吉里吉里の鎹(かすがい)に

潔癖で一本気な広報担当

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  • 話し手: 芳賀廣喜さん
  • 聞き手: 大崎智子
  • 聞いた日: 2011年7月10日
  • 017/101
ページ:3

これからの仕事、生活

 私が代理店をしていた新聞は、地方紙の岩手東海新聞なんです。釜石の本社も印刷工場も関連会社もすべてやられて、社長が会社を畳んだんで、社員は全員解雇です。ですから私の仕事そのものがなくなって、これからの生活について正直悩んでいる。若手社員の一部が、釜石市の助成金で広報を兼ねた新聞を始めたんですよ、週2回で。それが釜石だけじゃなく大槌まで来るのを待っているか、ただ待ってるだけじゃなくて、こちらからアプローチするとか。これから町の復興計画も進みますから、その計画の1つとして、大槌町も助成金を出せばいいんですよ。週1回の発行でも、改めて広報を配る必要がないんですから。

 最初の仕事は6年でしたけど、私はだいたい15、6年周期で仕事が変わってるんですよ。子どもたちを育てるためもあったんです。また外圧で仕事を変えなきゃいけない。今までだったらどうにかなったんですけど、今63歳で、100パーセントの力で働くのは正直きつい。新聞の仕事をやるのもたいへん、またそれをやめるのもたいへん、勤めるのもたいへん。住宅もある程度助成金をもらって建てるとか、住まいも考えないといけない。あまり後ろに延ばすと、子どもたちに負担がかかるから。東京にいる息子2人も、吉里吉里で生まれてこっちの小学校出ていて、友だちもたくさんいるんです。そのうちの1人が、来年私の仕事の跡を継ぐという予定でした。これから帰って来てもいいけど、こういう状況だとその予定も変更ですかね。

 いろいろ頭のなかでアンテナが絡まり絡まりしていて、すっきりしていない。一言で言えば、ぐちゃぐちゃになっています。疲れてます、正直疲れてます。若いころだったら、人生において背負ってるものがありませんけど、残念ながらねぇ。ここを離れれば簡単なのかもしれません。

 

吉里吉里の鎹に

 吉里吉里は育ててもらった町、大槌は自分の生活の場ですから、普通の人だったら「ここ」というと大槌の町なんでしょう。でも、私の場合は吉里吉里です。こっちに来たいという気持ちもある。ただ、ここにこだわっているわけじゃありませんよ。吉里吉里のまとまりのよさが、大槌の中心からすれば必ずしも評価されてはいない、妬みもあります。結束しているからこそ入りづらい、そういうふうにも見えるわけですよ。私は町で生活していたから、言葉とか態度ではなく肌で感じるんですよ。都会は嫌いでしたけど、しがらみがないから気楽でしたよ。残念ながら、吉里吉里だけじゃなく大槌の町もしがらみがあります。そういう空気を若いときから感じて来てますから。

 でもこれからはねぇ、そういうしがらみを無視してやってほしい。今まではいいでしょうけど、これからは少数意見にも耳を傾けてほしい。この聞き書きのプロジェクトが始まりましたけど、女性とか若い人からも話が聞きたい。たとえば高校生や中学生に、タイムカプセルで10年後こういう吉里吉里に住んでみたいとか、文章でも絵でもいいし。結構いいアイデアが出ると思うんですよ。それを我々がサポートしていかないといけないと思います。若い人たちの声を聞くいい機会だと思いますよ。ホテルの営業をしていたときも、若い営業マンたちから、それまで気付かなかったことをいっぱい教えられましたよ。それを吸い上げて行かないといけないですね。吉里吉里の先輩たちを見ていても一生懸命やってますからね、だから私は目立たず繋ぐ役でいいんです。ポジションは鎹かなぁ。

海に開けた吉里吉里の町

 吉里吉里のいいところって言ったらたくさんありますけど、地形が海に向かって開けた感じがありますね。開放感がいいですね。外側から見ただけですが、吉里吉里は婦人会もまとまりがいいですよ。よそからお嫁に来た人でも、同級生として仲間に入れるんです。それがまとまりになってるんですね。婦人会の集まりで、お互い旦那の悪口発表会でもいいんですよ、それこそが本音ですから。

 私はセールスマンしかやってないですけど、たとえ相手が年下でも、説教をするときでも、私は人差し指で人のことを指差したこと一度もないんですよ。必ず相手に手の平を向けてます。銀行時代の上司に気持ちは態度で表せ、と叩き込まれましたから、これは癖がついてるんです。よいしょするとか、胡麻摺ってるとかじゃないんです。私は、山形の人とは山形弁で、秋田の人とは秋田弁で、津軽の人には津軽弁で喋りますよ。酔っ払ってくると、津軽弁が出たり山形弁が出たり、ぐちゃぐちゃになります。感化されやすいんですね。でも、自分の考えに合わないことは絶対拒絶して、得をしない性格ですね。

 

【プロフィール】

話し手:芳賀廣喜さん

震災前は大槌町末広町で岩手東海新聞の代理店を営む。震災後は吉里吉里地区の避難所における災害対策本部の広報担当として、地区の人たちとの連絡、外部機関との交渉などを担当。

聞き手:大崎智子

特定非営利活動法人共存の森ネットワーク インターン

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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