東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

暮らしを語り、想いをつなぐ。

お問い合わせ

自然のふるさと

吉里吉里という地に越してきて

022-top
  • 話し手: 芳賀正彦さん
  • 聞き手: 中村駆
  • 聞いた日: 2011年7月10日
  • 021/101
ページ:3

地震と津波でなくなったもの

修理後の自宅には薪ストーブが設置された

 私の家はね、屋根と柱と土台は残った。内壁、外壁全部、畳、床、天井もめちゃくちゃ、要するに全壊なの。ただ建築家に聞いたら、80年くらい前に建てた昔の家だから大きい石の上に乗って、寸分の狂いもずれも傾きもなかった。間違いなくリフォームで元通りの家になるよ、保証しますよっていう。新築するよりは少しでも安いから、もうどんどん大工さんが入ってる。7月末に完成です。吉里吉里で最初に俺の家が復活する。

 津波での行方不明者も入れて犠牲者は90人くらいじゃないかな。まだ2、30人は行方不明のままです。みんな海の向こうに行ったんだと思うよ。もう陸地は徹底的に行方不明者の捜索したから、それでも見つからないってことは海の方に行ったんだ。海なんか行ったら分かんないよ。津波がどういう方向に流れてっていうのは想像もつかない。

 

地震と津波で得たもの

 50年100年先には必ず津波は来るよ。みんな忘れます。俺の子供の代までは覚えているけれど、間違いなくみんな忘れるってことを前提にこれからの津波対策しないと。こんな巨大な災害をいつまでも忘れるはずはない、記録に撮ってても、映像に撮ってても忘れるはずはないと思うけど、いつか必ず、50年くらいしたらみんな忘れる。避難訓練も参加しなくなります。それは間違いない。

 

これから ?夢と希望―

豊かな海・砂浜・山が吉里吉里の財産

 地震や津波で亡くなった人の顔もいっぱい見たし、真っ先に俺は、助けられた命だと思ってるなぁ。だからその人たちに恥ずかしくないような、笑われないような生き方をこれからしていく。俺は真っ先にそれ考えた。犠牲になった人が一番喜ぶのは、やっぱりきれいな海、ほんとの自然の砂浜、そして里山。全部がきちんと手入れされて豊かな海・山・森になることが一番喜んでくれるんじゃないかな。いくら物の豊かな生活になっても心が豊かじゃないとね。人より立派な車乗ろうが、人よりいいお家に住もうが、心が豊かじゃないとね。海・砂浜・山がきちんとしてればおのずと本当の町ができる。だから良い海を作るっていうのはおこがましいけど、いい海を守る、そのために山に入る、間伐・手入れする。もうね、山の手入れも10年20年じゃ終わらないよ。この広大な人工林、見えないところ、子ども、孫の代までずっと奥にもつながってるんだよ。その孫が、またいい人見つけて結婚して子供産む。普通の暮らしの中に山の手入れ、山の中に入るという生活にシフトする町になってく。

 今までは、三陸っていったら、みんな海のもの。これからは、いい海といい山がある。そうみんなに思わせる、イメージが浮かぶような町づくり。自然のふるさとは、10年20年じゃできないよ。その中からいろんな仕事も雇用の場もできてくる。海産物だけじゃない、吉里吉里にしかない特産物も出てくるだろうね。でも今の吉里吉里は海産物、海の幸だけです。

 これからは海の幸+山の幸+人の幸ね。漁師の若い子が、小さな職場で臨時採用しているサラリーマンが、ちゃんと世界各地の人たちと堂々と意見を述べられる、そういう人材が人の幸でしょ。海、山、人の幸。

インターネットでつながったボランティアと「復活の薪」に取り組む芳賀さん(右から2人目)

 せっかくインターネットとか情報の時代になったのに、みんなまだ、どうやってそれを利用していくか、俺もそうだけれどわかんなかったなぁ。今回初めて、漁師の若い子たちもみんな、マスコミ、インターネット、巨大メディアの力思い知らされた。この薪のプロジェクトの若い子も「正彦さん、マジでパソコン覚えたいです。使わして下さい」、俺は「あぁ使え」って。俺もこれから、本当に覚える。何とかメールのやり取りできるようになったけどね。

 船を自由に操れる、山でチェーンソーを自由に操れる、パソコンも自由に操れてインターネットを利用して、直接お客さんと海の男が取引できる。津波がそういう風に教えてくれた。犠牲者の人たちが、そうしろって望んでると思います。海には責任はないのよ。こんな大災害で尊い人命、財産が失われたけど海には何の責任もない。俺たちがただここに暮らしてただけの事。これからもそうするの。俺たちは海のそばで生きていく。

 

【プロフィール】

話し手:芳賀正彦さん

28歳で吉里吉里に婿養子としてやってきて以来、52歳まで自動車整備士として働き、退職後60歳まで林業に携わる。現在は「復活の薪」プロジェクトで活動している。

聞き手:中村駆

東京農業大学地域環境科学部造園科学科1年

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
「聞き書き」とは 詳細はこちら 一覧はこちら