東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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みんな笑顔になるために、立ち止まってはいられない

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  • 話し手: 田中茂さん
  • 聞き手: 吉野奈保子
  • 聞いた日: 2011年7月10日
  • 029/101
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親父はラッキーだった

 私の家族は4人。妻と爺さん一人。息子が2人。長男は県庁に務めていて、次男は私らと一緒に働いていた。次男は工場を片付けた後、先に帰したのさ。で、妻は一番先に逃げたんだけども、みんながみんな顔見るまでは「あいつは大丈夫か」って心配だったね。吉里吉里の方も被災しているからね。もしも家に帰っていれば、恐らく沈んだだろうと思った。あいつの性格だったら、ひょっとしたら行ったかもしれない、と。

 

鉄筋造の自宅は3階まで浸水

 うちの家、鉄筋の3階建てなの。ちょうど、あの日は弟が遊びに来ていて、親父は家にいた。本当は早く逃げれば良かったんだけれども、年寄りっていうのは変な自信があるんだなあ。「逃げない」っていう。水が来たのを見てから3階に上がったんさ。で、家は3階まで水没したんだけど、3階の小部屋は空気だまりができるような構造になっていたから、そこに顔つっこんで助かった。たまたま窓の向きが良かったんだね。窓が破れたら波に引っ張られたと思う。ラッキーだった。

 

 うちらも、あの家は、津浪が来ても2階までは来ないだろうって思っていた。建物の地盤でだいたい4メーター、2階で10メーター以上あるからね。3階だったら12、3メーターはあるはずだ。防潮堤で津波はいくらか押さえられるだろうし、国道がちょこっとあるけど、そこでまた波が押さえられるだろうって。だから大丈夫だろうと思った。変な安心感だな。本当、自然に対抗するのは無理だ。それが人間の愚かさだと思う。「これなら大丈夫」って思うんだな。

 

息子は避難所でボランティアをした

 避難所は、最初から藤本さんとかが、炊き出しの準備してくれたりして、食糧には困らないようにしてくれた。だから良かったのさ。

 発電はバスを使った。秀樹君たちが、バスをタイミングよく小学校さ逃がしたから。それで発電して、祭りに使う電線を持ってきて、電気をつけることができた。最初から真っ暗でないし、良かったのさ。

 私は、最初の日はバスの中で寝て、次の日から4丁目の弟の家に泊まった。俺の家は津波にはやられたけど、たまたま残ったためにガレキの撤去は次の日からすぐに始めた。弟も手伝ってくれて、本当にこの間までかかって。その間、3日間だけ休んだ。あとまた、休みなしだもの。

 

 息子は避難所のボランティアをするって。消防団にも入っていないから、どうするかなあと思ったけど、息子がそう言って決めたんだ。誰が何て言ったって、自分の命は自分で守らなきゃならねえ。でも、そのあとは、それぞれが助けてやるに越したことはないね。本当はうちらだって避難所を手伝わなきゃいけない。そういう気持ちは、みんなあると思いますよ。若い人も率先して手伝おうって感じだった。

 

亡くなった人への想い

 この津波で弟の嫁さんが亡くなったし、あとはうちのお袋の実家の嫁さんも亡くなった。あとは親父の兄弟、私の従兄、それも亡くなった。近い人で4人以上いるなあ。あとは、うちの親父にしたらハトコ(再従兄弟姉妹)か。その人たちも亡くなったなあ。

 亡くなった人に悪いけど、私は自分の家族は何とかなったし。だから、まず、いい方だとは思っている。うちに勤めている人の中には、両親と奥さんと子供が亡くなって、長男と自分だけが残った家もある。いずれにしても、亡くなった人も何分か違いだな。私もそっちに入っていたかもしれないし……。

 

 これまでも海で人が亡くなることはあったよ。記憶に残っている最初の事故は、小学校5年生のときかな。船1隻、行方不明になったんだよね。同級生は親を亡くしたし、親戚も。かわいそうだっけ。うちらは親いるけれども、そいつには親父いなくなったからね。

 そんなとき、どういうふうに区切りをつけるかと言ったって、実際、その本人でなきゃわからないね。うちらみたいな会社側の人間は、ただ、家族の思いを考えてやることしかできない。しょうもないよな、祈るしかない。会社としての供養は33回忌までやりました。

 昔からこのへんではね、33回忌で「まっかぼとけ」っていうんだな。それでまず、いったん供養するのやめるんだっけ。その頃になれば、だいたい御先祖様のこと知っている人は自分の方も亡くなってくるわけだ。それがひとつの区切りだったんだな。

 遺体がみつからないと、それはかわいそうだっけな。本人たちが区切りつかないみたい。あきらめきれないというかな。あきらめているんでしょうけれども、何かやっぱりなあ。

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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