東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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みんな笑顔になるために、立ち止まってはいられない

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  • 話し手: 田中茂さん
  • 聞き手: 吉野奈保子
  • 聞いた日: 2011年7月10日
  • 029/101
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工場の再建に向けて

自宅を加工場にする工事を開始

 工場の再建はね、一応やるつもりで動いています。息子も「逃げない」って言ってるからね。さっきも話したけど、安渡の工場は満潮になると普段から水が入ったし、あそこは県有地だからね。県はもう貸さない方向です。だから吉里吉里の本宅、そこを加工場に改装しようと思っています。津波の影響で地盤沈下したとしても、こっちは海抜3メートル以上、3メーター近くあるからね。ゼロメートルと3メートルだったら、3メートルの方がいい。それに人の土地じゃないし、自分の土地だからいいんじゃないかなと。

 

 資金はまだ決まっていませんけど、政策金融からもちょこっと借りたり。ちょこっとでもないなあ。返せるか、返せないかっていうくらいの額。あと、工場が浸水しているから、国の補助が4分の3になるのか、どうなるかわからないけど。それがあれば、ある程度の工場はつくれると思っている。政府の支援がどのくらいあるかによって変わるね。それがなければ、細々とでもやろうかと。

 二次補正予算はあてにならないと思っているよ。あれは福島の方にみんな行くと思う。だって、あっちの方がひどいもん。考えようによったら悲惨だ。こっちには立ち直る目途っていうか、地盤があるけど、あっちは根こそぎだ。近くにも寄れねえもんなあ。

 あとは、すべて税金を使用することだから、ちょっと心苦しいな。でも、それ無しでは立ち直れったって難しい。そんなに今の世の中、儲けさせる商売ってないしね。

 借金の返済は、20年はかかるかなあ。それがちょっと重いな。

 

 工事はもう始めているよ。だって待ってられないもん。ぼやぼやしてられない。鮭の定置網が10月にはできるだろうって。工場もそれに間に合わせなきゃいけない。時間は待ってくれないからさ。金はないけれども見切り発車している。

 この秋のタイミングをはずすと、あとは来年の今頃まで、寝てた方がいいもんなあ。ろくな仕事ねえから。だったら止めた方がいい。どうしたって商いはしてかなきゃいけない。商売やっていれば、資金はついてくると思う。

 

魚が売れれば、みんな笑顔になれる

 鮭の加工は、このあたりはずっと昔からさ。大槌川に上がる鮭を荒巻にして、南部藩に献上していた。だから南部藩の殿様は大槌を大切にしたわけだ。

 荒巻にするのは「ぶなっけ」が多い。ブナの木って赤くなってくるでしょう。あんな感じで赤く、婚姻色が始まった鮭のことを「ぶなっけ」っていう。12月になって寒さが来ると加工する。私らは、「ぎんけ」を加工しているけどね。鮭の身体が銀に光っているのは「ぎんけ」っていうんだな。

 

 吉里吉里は大槌川みたいな大きな川はない。だから、山からの腐葉土は湾に流れないんだな。でも湾の外から水が入って、プランクトンの入れ換わりが早いから、若布やホタテの養殖にはいいみたいだね。逆に栄養源が川から流れ出てくるようなところは、海苔やカキがいいみたいだ。

 素人だからようわからんけど、津波はいいこともあると思うよ。海がひっかきまわされていいと思うな。ここのところホヤの病気が発生していたんけど、ひょっとしたら、病気まで津波で一掃されて、持ってかれたらいいなあと思うね。

 

 吉里吉里は、いい漁場なんだけれども、魚釣っても売るところがなくてさ。で、年とってくれば足がないから、余計売れないわけさ。だから、昔、先祖は担ぎ屋をやったこともあるんだ。大槌まで魚担いでいって、売ったんだね。

 吉里吉里に市場でもあれば、漁師さんが獲ったのをそのままを売るとかね。スーパーは揃った魚がいいって言うけど、市場だったら親子ぐらい違う魚が一緒に並んだり、不揃いでいいじゃないの。それをうまいネーミングを考えて。たとえば「ファミリーフィッシュ」とかねえ。規格外で面白味があれば、消費者も買うと思う。そういうものを求めているところも、今の時代、あると思うなあ。

 で、復興に向けてさ。販売の方、誰か支援してくれるといいけどなあ。魚が売れれば何とか、まわっていくから。加工場も早く再開して、地元の魚も受け入れるよって間口を広げておけばね。何か地元に役立つこともあるかもしれない。

 そうしたら、みんなも笑顔になれる、と思ってる。

 

【プロフィール】

話し手:田中茂さん

祖父の代から漁業や造船業を営む会社を経営し、近年は水産加工業を営んでいる。震災以前は、安渡地区に加工場があった。現在、吉里吉里地区での工場の再建に尽力している。

聞き手:吉野奈保子

特定非営利活動法人共存の森ネットワーク事務局長。東京農業大学農山村支援センター事務局次長兼務。

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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