東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

暮らしを語り、想いをつなぐ。

お問い合わせ

ここ、石巻のスポークスマンとして

033-top
  • 話し手: 須能邦雄さん
  • 聞き手: 森山紗也子
  • 聞いた日: 2011年8月26日
  • 032/101
ページ:3

石巻市場の再開

7月12日に再開した石巻魚市場

 うちの会社の社員は45名くらいいて、年代はばらばら。新入社員が3人いて、定年間際の人もいる。震災受けて、全員解雇せざるをえない会社が多い。私は石巻市場が水産復興の中心だから、まずそこの雇用を守って、彼らの家族を守ることから始めないと、と思ってる。震災の痛手が大きすぎて、7月の12日に初めてわずかだけれど水揚げができるようになった。それまで石巻の市場というのは1日平均で400トンから500トン、全国でも第3位の水揚げをする場所でしたが、再開した当時は1日に3トンとか、0.5パーセントにも満たないような数字で、8月の半ばくらいになってきて、やっと10トンとか15トンとか。9月2日からは底引き網も再開されて、受け入れの工場も少しずつ再開してきたので、今度は100トンくらい水揚げができるようになる。だから徐々に復旧の状況ができてくる。そのためにはみんなに働きかけて、みんなでがんばろうというムードを高める努力をしている。

 一番最初に復興した漁は主にね、釣りイカ漁。釣ったイカを箱詰めして保冷しているから、加工せずにそのまま日本のどこにでも出荷できる。9月に入ると、やっと冷凍工場ができてくる。今回はトラックの大部分が沈められたり流されたりしているから、配達の処理能力も小さい。

 石巻に集まっていたのは全国から来ていた船。震災の当日、石巻の10トン以上の大きな船は操業していたの。小さい船はちょうど休みだったから、全部そのまま陸に上がったり、引き波のときに引っ張られて流されてしまった。

 

復興への後押しをする

 再建している会社があるけれども、まだ再建していないところも多い。大きなお金を借りてまでやって、商売として成り立つかという不安があって様子見る人もいるし、いろいろ。小さいところはリスクをなるべくかけないように、共同で土地を借りて立ち上げる方法もあると思う。私は迷っている人が一歩踏み出すようにエールを送ってあげて、心の後押しをしてあげる。実際に会議のときは国からの補助事業を持ってきたり、政府の人に要望を出したりしている。あるいは市場で持っている資材を貸してやって物心両面で支える。あきらめないで続けるということをみんなでどう持続させられるかを考えている。そのときに他港とは比較しない。昨日より今日、今日より明日というように自分の周辺でがんばればいいんだから。

 人間の知恵っていうのは限りがないの。その知恵を出すためには知識が必要。各分野からの知恵を出し合って刺激しあう。日本人の常識は、生が一番高級で、それが現実。ところが、一本100円の大根、一握り10円の大根が、おいしい風呂吹き大根で、おいしい水を使えば高級料理になって、一本1,000円になる。ちゃんとした材料持ってきて、ちゃんとした作り方する。そういう風にポジティブに考えればできることがある。私はそれをずっと考え続ける。

 

私は言い続ける

 「天災は忘れたころにやってくる」というけれども、「天災は恐れていてもやってきた」というわけよ。われらは怠慢していたわけではない。ただ、誰も津波については無知だったのよ。津波っていうのはないと思ったわけ。痛みを忘れるから人間は強いんだけれども、自分が痛みを感じないと、頭の中でそれは大変だと考えても、それはイコール痛みではないから感じないの。自分の痛みを過去に経験していなければ、想像できないでしょ。だから、震災についても経験して分かった人が言わないと、想像の世界では分からないのよ。

 「気の持ちよう、禍福の縄が命綱」って。要するに物は考え方で、復興はそれが結果的に大事だって気がつくようなもの。絆だとか、健康であったことが大事だとか、そういう「日常では気がつかないこと」に気がつかなければ、それを喜びとしなければ、不幸が不幸になっちゃうじゃん。「太陽と友の力で復興だ」って言うのは、太陽は明るさでしょ、それから同胞って言う、日本人や仲間が支援してくれることがわれわれの復興の源じゃん。恨んだ気持ちを言っていたのではネガティブで前に進まない。いかにそれを切り替えていくかということよ。ただ、事実は事実だから。「天命で生かされたのだ。やり抜こう」って言うのが俺の決意よ。生かされたのよ。

 実は従業員が車の中で亡くなって、その遺体が置いてある安置所に見に行った。そうしたら、身元不明の写真が貼ってあった。その中に若い女性が目を爛々と光らせて「私は生きていたい」という強い思いを叫んでいるわけよ。そういう人たちの想いを我々は代わって生きているんだから。だからわれわれが彼らの思いを受けてやらないといけない。そう思えば、愚痴なんか言っている場合ではない。本気で先頭に立たないといけないと、本気で覚悟を決めた。それと同時に、私はすべてのみんなの不満を聞く役になるんだと。全部の不満は聞き入れて、まずは前向きにやらないと。人間って、覚悟決まると決まるものなのよ。必ず、いつまでになるかは分からないけれども、復興するという信念を持って、それを言い続けてやり続ければ、必ず成り立つと。岩窟王ではないけれども、私は言い続ける。

 

【プロフィール】

話し手:須能邦雄さん

大洋漁業での北洋サケマス船団長などを経て1994年に石巻魚市場に入社し、2001年からは代表取締役社長として石巻の水産業を牽引している。

聞き手:森山紗也子

特定非営利活動法人共存の森ネットワーク 事務局

 



■ 宮城県石巻市

宮城県石巻
「聞き書き」とは 詳細はこちら 一覧はこちら