東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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早く海の仕事をしたい

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  • 話し手: 田中博さん
  • 聞き手: 牛田貴規
  • 聞いた日: 2011年07月10日
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観光船「はまゆり」の解体

 観光船の「はまゆり」は、屋根から下ろされて解体されました。俺が現役の時はね、この船のこと一切やってたから、だから釜石市役所から「どうしたらいいかな」って家に電話があったの。だけど、俺仕事辞めた人間だから、「後任の船長に聞いて判断した方が良い」って言ってたんだけど、俺が仕事辞めたぐらいから観光船に乗る客が減少してるってのを聞いとったからね、だから「壊すなら壊した方がいい」って言って、壊すことになったんです。

 今回の震災ですごい報道されたんで、いい影響と、悪い影響とがあると思って、それを考えて解体ってことにしたのかなって俺は思うんです。住んでいる人からすると、悪いことの方が多い。「はまゆり」を見れば、忘れたくても忘れられない、見る度に津波の事を思い出す。それでもう、見せない方が、なくした方が良いんじゃないかということになったようです。だけど、本当は「はまゆり」を壊さない方に賛成しっとった人もいたの。「こういう時に、こういう津波が来た」って、それを残しておきたいって人がいたの。だけども、維持費、管理費の事を考えていったらね、莫大な金額がいるんだよ。自分たちの一生もずうっと残すって思ったらさ、建物作って中さ入れておいてさ。だから結局、壊して、思い出はいっぱいあんだけど、だども、その思い出だけ考えたったってね、どうにもなんないからさ。

 

地震後、急いで釜石から吉里吉里へ

 3年前に船を降りてからは、釜石港に外人の船が出入りするからそれの監視、門番っていうんだども、津波が来るまではその仕事をしとったの。津波の日は、俺が昼番でね。たまたま俺4時の交代だったから、そろそろ交代の時間で、その時に地震が起きてさ。これが海の男の勘でさ、「こりゃ完全に津波が来る、絶対に来る。とりあえず帰んなくちゃ、家に帰んなくちゃ」って。それだけが頭に浮かんで、車に乗って釜石から吉里吉里までそのまま飛ばして帰ったんです。皆ね、不思議がってんのよ。釜石から吉里吉里まで普通に車で走っても30分かかんの。それをどう走ったんだか、第1波が来る前に、吉里吉里に着いたの。すごいパニックだったのさ。道路も停電だったし、電話も携帯も通じない。もう、はぁ何が何だかさっぱりわかんない。だけども、家に着くっていう頭だけあったの。すごい津波で大槌の両石って部落が全滅なわけ、残った家2軒か3軒かでさ。そこの町中を走ってきたんだ。だからもう俺、母ちゃんと全然連絡とれなかったから、俺はもう津波に流されたと思った。

 俺さ車で急いで吉里吉里へ帰ってきた時、母ちゃんは小学校に避難してたの。でもうね、2波か3波が上がってきそうだったのよ。そして、まだ子どもたちが小学校にいっぱいいてね。「もうだめだだめだ、ここでだめになるから、お寺の方に避難せい」って、お寺の方に皆で上げてよ。お寺は避難場所になってっからさ、一番安心するところだから。でも、そこにまで津波上がってくると。「皆、上がれ上がれ、線路の方に上がれ上がれ」って、みんな騒いで。

 

飼い犬を救う

 1波と2波が早かった。1波目の引き波がいくらもなくて、2波目が来たの。その時に俺、ヨークシャテリアって犬飼ってんだけど、母ちゃんに聞いたら、家さ置いてきたって。隣の家でも兄弟の犬を飼ってんだけど、そっちでも置いてきたってさ。津波で家ごと玄関の窓がガラガラと壊れていった時さ、犬もダメだなと思って。小学校から騒ぎが聞こえる距離だったからさ、すぐグランドの下だったの。ワンワンともなんとも声がねぇのさ。おれの母ちゃんも俺の手をつかんでさ。俺はね、いつもそうなんだけど、なんでも助けっとっといえばさ、人の手振り切ってまで行く人間だと思ってっからね、行くと思われんのさ。だから俺を抑えてあったの。「ええ、いいか、犬1匹ぐれぇ死んだったってしかたにゃあ、あきらめた」って油断させてさ、母ちゃんが手を離した隙に助けに行ったの。で、避難している人に、皆に騒がれてさ、「犬大事なのかぁー、自分の命大事なのかぁー」って。

 家さ入って行ったけどね、そしたらば尻尾振ってさ、ちょこちょこって動いたったのさ、たまげたんだっぺがね。そして犬の首を押さえて抱いて、小学校に走って上がっていったの。そうしたけど、隣の家にも犬を置いてきたって言んだったから、また下がっていってさ、自分ながら犬3匹助けて英雄気取りさね。でも、みんなに怒られた。「なぜ助けた」って。

 そして、2波が終わってっからかな、3波に少し時間があったんですよね。俺も終わってからね、自分ながらね、後悔してたの。ちょっとの違いでさ、あれで皆命落とすんだってさ。「俺、携帯忘れた」とか、「長靴履いてなかった」とかさ、そういう人たちが家さ行ってやられてたから。だから、助けたつもりが、皆に今度は怒られてさ。

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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