東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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早く海の仕事をしたい

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  • 話し手: 田中博さん
  • 聞き手: 牛田貴規
  • 聞いた日: 2011年07月10日
  • 034/101
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小白浜にいる娘に会いに

 津波が来た後にうちの母ちゃんがさ、小白浜(岩手県釜石市唐丹町小白浜)にいる娘を心配してパニックになってしまって。「行って見てこよう」って言ったんだけど、行く道路も全部だめ。それでね、考えた結果、この金沢(大槌町金沢地区)の方から車で山を越えて遠野に出て、遠野から回ってきて釜石に入って、そこから道路がだめだったから三陸鉄道の線路を歩いていったの。7時間半かかって小白浜まで歩いて行ったよ、娘に会いたいために。

 小白浜の人たちは、避難する場所が上の方にあったんですよ。なんか、常に使っている集会所みたいなところがあってね、そこにみんな避難してて、娘は大丈夫だった。安心してそのまま帰ろうかと思ったら、あっちのお父さんお母さんに、「いいから泊まって朝帰れ」って。泥棒が激しかったから、家の方も心配でさ。半壊の家なんか荒されてたの。もうすごかったんだよ、津波で残った家の2階なんかね。津波のあとすぐさ。13日14日らへんから泥棒が流行ってたんだか、そういう話があってね。みんな持っていかれてた。それのせいで、地元の人たちが自分たちの家に戻るのが躊躇されたって、自分も間違えられるんじゃないかってさ。

 

早く海の仕事をしたい

 吉里吉里は、身元の分かった人のためにお寺で合同慰霊祭をやったんです。49日、100日の時、津波の時間帯にサイレンが鳴って、皆海の方向いて黙祷して。いろいろなことあったな、この津波な。

 だども、本当に悔しいとか、心配とか、そういう気持ちは1つもなかったな。俺はね、天罰だと思ってんの。今の人間がさ、苦労っつうのを知らない、食べ物でも何でもさ、好きなことやってさ。そういうのをね、神様が見ててね、天罰下すんだと思ってんの。ちょっと苦労を味あわせようと思って。あんまりだどもさ、あんまり苦労が多すぎて、俺はあきらめてんの。だからちょっとこの世界に地獄を味あわせたっつうわけで、天罰下すんだね。そう思って、あきらめんの。恨んだってなんだって、しょうがないもん。まあ、金だけで住む問題でねぇからさ。金があったからどうのこうのとかじゃなく、俺は早く海の仕事をしたいんです。

 

瓦礫の撤去作業が生むモノ

 今、漁業者が瓦礫作業だのをやってんだけど、これの良いところは、作業する事で人も集まれるし、お金ももらえるし、会話も生まれる。人との会話は大事だよ、情報も入るしね。瓦礫の掃除には、100人の人間が集まったの。津波で大変だったとかさ、あの人が死んだとか、そういう情報も入るの。だから、ただごろごろしてるより、そういう他人に住む所与えて、毎日作業で人が集まる場所に来て、情報を得るわけさ。それを今度は違う集まりさ行って、皆に報告するのさ。撤去の作業に出るっつうのは、結構そういう情報のためでもあるし、あとは人間的にも精神的にもいいの。俺もこの通り被災したからさ、悲しいことも泣く時にさ、笑わせんの。「そういう時が明日も来る、毎日続く。」そうすると人の中にさ、溶け込んでいくのさ。

 たまたま今日休みなんだけど、最近は海のすぐ側に漁業者とかが皆集まって養殖棚だの浮き玉だのを取ったり、瓦礫の掃除をしてるんです。養殖で使ってたロープは、出来る限り長いのはとっておいて、使い物にならないのは50cmに切って焼却してるんです。吉里吉里の方はほとんど終わったから、今は隣町の安渡(あんど)の方に行ってるんです。吉里吉里の養殖棚も津波で安渡の方に流されてるからさ。津波が来る前は、吉里吉里の湾内には海いっぱいに養殖棚があったんだけど、本当に全滅なの。だから、漁業者にとってあれを全部新たにするっつうのは、歳をとったりすると無理になるの。だから、今残ってる30・40代の若手10人でこれからやらなければないのさ。60歳過ぎてやね、収穫までに3年か5年がかかるからさ、歳だけじゃなくて、体力的にも若手についていけねぇの、この仕事は。

 

海への想い

 私らの思い出っちゅうのは、海だけだね。関係があるのは、一切海だけ。だけど、このような津波があっても、海を憎らしいとか、そういうのは一切もたないの。今まで世話になってきたんだもん、海に。この漁をして、海から収入を得て、何十年も生活してるもんだから、一日やそこらの津波で、恨む気にもならねぇの。たまたま、神様のなんかでさ、こうなったと思って、あきらめてんの。これからも、また海の生活がはじまるんで、どうしても海がなければ生きていけないの。だから、あまりその恨むっつうことはしません。でも、心の中でね、「なんで皆泣かせるような真似したのかな」ってね、朝に海を見て1人で言ってんの。

 

【プロフィール】

話し手:田中博さん

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里地区で生まれ、水産学校を卒業し、大型イカ釣り漁船の船長をした後、観光船「リアス丸」と「はまゆり」の初代船長を務める。

聞き手:牛田貴規

会社員

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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