東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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地域の人たちに育ててもらった店だから

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  • 話し手: 中村勝彦さん
  • 聞き手: 吉田麻美子
  • 聞いた日: 2011年7月10日
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現在の家族の暮らし

 最初は、うちに避難してきてっていう老夫婦がいて、そこに1週間お世話になって。これ以上迷惑かけちゃまずいってことで、自分たちで探してたら、吉里吉里の親戚の家が1軒、「古い家が空いてるから使って」と親切に言ってくれて。茶碗でも何でもあるものは自由に使っていいからって。ほんと有難くほとんど不自由することなく、ふとんもそこの家のものを使わせていただいて。俺達には子どもがいないから、今はお義父さんとかみさんと3人で住まわせていただいています。今までの当たり前の生活から一変して、物資をいただいたり、いろんな方からご支援をいただいたり助けられたり、ほんと感謝しております。物はまた働いて買えばいいけど、やっぱり家族がみんな無事でいることの幸せ、命に変わるものなど何もないし、命あってだし。家がなくても、「生きててさえいてくれれば」と日が経つ毎に強く思うし、昨日までは元気だった人が心の準備もないまま突然いなくなる訳だから、かみさんも気持ちの整理がいつまでもつかないと言います。

 初めの頃は探しながらいろんな手続きやら、家の回りの瓦礫の片付けやらで、無我夢中で向き合える余裕がなかったけど…。吉里吉里地区は吉祥寺の和尚さんのご配慮で、四十九日、百ヶ日と合同でやってくれて、お位牌もいただいたり、一生懸命つとめていただきました。7月には行方不明者の死亡届の受付も始まって。その少し前に和尚さんに相談し、見つけたブラウスとハンカチをせめて遺品としてお墓に納めさせていただきました。

 仮家だから小さい仏壇をいただいて、そばに一緒に置いてるんだけど、小さい家でもいいから早く建てて、仏壇を買って、早く安心させたいなって、かみさんと話してます。お義父さんはお義母さんに頼ってきた人だから、俺らには寂しい顔見せないけど、一番寂しい思いしてるのはお義父さんなのかもしれないなぁ。今でも明るい声で「ただいま」って、お義母さんが帰ってくるような気がするし、旅行に行って帰って来てないような、何年経っても、そんな気持ちなのかもしれません。手元に引き取る事もできず、見送る事もできず、かみさんはせめて母に似合った生花を衣装代わりにしていただきたいと、信じられない複雑な思いを胸に抱きながらも常にきれいな生花を飾ってあげてます。

 

お店の再開

 震災のあと1ヶ月くらいしてから、本部から仮設でやるかやらないかっていう意思表示を聞かれて。お義母さんが見つかって、お葬式もあげてやって、一つ決まってからまた次に行くっていうのだったら良かったけど。まだ混乱してる、探している最中にそういう話だったんで、いろんなことを一度に考えてしまって、ちょっとすぐには返事できなかったです。仕事していかなきゃ自分達も生活できないし、従業員の事も考えて行かなきゃいけないし。でも、再開するにも辞めるにも勇気が要るし、先が見えないだけ不安も出てきたりするし、なかなか前向きな気持ちにはなれず。今まで24時間365日、目一杯休まず仕事してきて、正直言えば、最初店もなくなった時は、これを機に辞めようかとも考えたけど、地域の事を考えると、今必要なものが買えない、遠くまで車で行かなきゃ買えない。だから、地域の人のためにも再開するべきだよなと。なにより、商売人だったお義母さんが「私の事はいいから早くやりなさい!」って気合いをかけられてるような気がするよねって、かみさんとも話して。それで、やりますと返事をしました。

 やると決まって、自分でやれることはやろうと思い、ハンマー持って店の基礎を壊したり、瓦礫を片付けたり。大工の血が騒いだのかな(笑)。本部の人が打ち合わせに来るたび、「なんで店長さん、そんな真っ黒に焼けてるんですか」って不思議に思ってましたね(笑)。かみさんは書類や手続きに追われて、体調を崩しながらも、「泣いてばかりいる姿を見せたら、母さんが余計心配する」「母さんが見ててくれてると信じて笑顔で元気にがんばるんだ」って、気を張ってます。

 まだまだ先が見えない状況ですけど、今は早く開店して、地域の人達に必要なものを、便利さを与えること。昔の商店だった時代からずっと、地域の人達に育ててもらった店ですから。

 

【プロフィール】

話し手:中村勝彦さん ご協力:中村千秋さん(奥様)

岩手県大槌町浪板地区の漁師の家に生まれる。実家の漁師、東京での建設業を経て、38歳のときに、奥さんの実家のある岩手県大槌町吉里吉里地区で、フランチャイズチェーンのコンビニを始める。現在は店長として勤務。

聞き手:吉田麻美子

静岡市役所勤務

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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