東京財団×共存の森ネットワーク 被災地の聞き書き101

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工場を再建し、働く場所をつくりたい

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  • 話し手: 田中信博さん
  • 聞き手: 吉野奈保子
  • 聞いた日: 2011年7月30日
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加工場は年内に再建します

 最近は、避難所の方も、だいぶ落ち着いてきたんで、家の仕事を手伝っています。家の

 片付けはほぼ終わって、今、加工場を建設中です。自宅の1階を改装して工場に、2階、3階は倉庫にして。あと、2階には従業員が休憩する場所ぐらいは作ろうと思っています。社員の数は、もともと少なくて、パートさんまで含めて30名足らずですが、今は全員、一時解雇です。俺の場合も今は、失業保険だけが収入です。

 国の補助金は、県の話だと、各工場に4千万ずつ補助が出るらしい。額から言ったら、当初の話の3分の1かな。結局、あっち助けて、こっちは助けないっていうと不公平だから、一律4千万円になったようです。だから、再建する工場の設備も最小限。いらないものは買わないし、後からでもいいものは後から買おうって。工場の規模も、従業員の数も、3分の1ぐらいに減らすことになると思います。

 再建の目標は今年10月ですね。何故だか、わかります? そう、サケ。そこは目指したいですよね。だから、あと3カ月。でも現実には、設備も入れると11月かな。今年じゅうに出来上がって、1カ月だけでもサケの加工をやれたら、少しは違いますから。

 工場の目の前は海だし、怖くないかって言われれば、怖いなあっていうのはありますよ。でも、そんなこと言ってる場合じゃないし、何もやってないより、やらなきゃならない。やったもん勝ちです。で、実際に始めないと、うちで出していた商品は商標登録とかしていなかったんで、持ってかれてしまうってこともあるかもしれない。早く仕事を再開しないと取引先もなくなりますから。「待ってくれているうちに早く始めないと」っていう気持ちがあります。

 うちはサケ以外にも、一夜干しとか、サバとかサンマとか。みりん干しもやっていました。だから、加工場が動き出したら、外に出すと同時に、地元に直売価格で売る、そういう考えもあります。だって、みんなも喰いたいじゃないですか、サンマでも何でも。それに、うちも、作ったら工賃かかるけど、寝かせといたら、いつまでも元が取れないでしょう。だから地元にも出したいなあと。早く吉里吉里の民宿でも、魚の切り身とか、焼かれたら嬉しいですよね。

 とりあえず、今の目標は赤字にしないこと。儲かることを考えるんじゃなくて、損にならないような仕事をしたいと思います。

 これまで、うちは盛岡水産とか、中央卸市場とかそういうところに出していましたけれど、大手との取引は、結構、損していると思います。でも、大手チェーン店、ジョイスとか、イオンなんかと直接取引するには量がないし。そうなると、市場に出すしかないですよね。

 直接、消費者とつながるっていうのは、まだ先の話だと思います。そういう仕組みが出来たら、きっと、乗りますけど。まずは自分の力で、前哨戦みたいなものをやるしかないんじゃないですか。

 

若い仲間とともに

 若い仲間は、少なからずいる。いないわけではありません。外に出ている連中も、自分の生まれ育ったところを嫌いになるなんて、そんなのいないはずだから。

 避難所で物資の窓口やっていたメンバーとは、この間、仮設住宅でバーべキューをやりました。震災後から親しくなった人もいる。佐野さんなんて、もともと吉里吉里の人じゃない、山形の人で。奥さんは吉里吉里の人で、うちの兄貴と同級生なんですよ。だから歳で言ったら、うちの兄貴より5つ上だけど、震災後、知り合いになりました。

 うちの兄貴は県職員なんです。東京水産大学を出た後、釜石の水産技術センターに勤務して、今は県の振興局、水産部にいます。だから水産関係の話は、結構、相談に乗ってもらえる。

 同級生とか他の仕事をしていた人が、水産加工の仕事に就くっていうのは難しいですね。水産加工の仕事は給料が安い上に、立ち仕事が多くて、仕事としてはつらい。工業関係も、油はねとかあって大変ですけれど、まだ水産に比べたら楽だし、給料がいい。だから、工業関係の人から見ると「水産関係は疲れる」っていう。その逆は、楽だって。

 でも、たとえば、高校生とか。将来、若い人材を雇えたらいいなあと思います。若い方が頭やらかいし、教え甲斐もある。頭のいい人が入れば、パソコンやったり、インターネットやったりしてくれればいいし。そんなふうに考えています。

 そのためにも、まずは工場を再建して、人が働くところを作っておかないとね。そうじゃないと、どんどん人が抜けていくから。吉里吉里に人を残すことを考えておかないと。

 外の人にはこれ以上、助けてくれってわがままは言えないような気もするから、まずは、自分たちでやります。あまり期待をしないように、でも、少し期待して待っていてください。

 

【プロフィール】

話し手:田中信博さん

自動車整備工などの仕事を経て、5年ほど前から吉里吉里に戻り、父母が経営する水産加工会社に勤める。震災で工場と自宅の両方を失った。現在、浪板地区の親戚の家を借りて、家族と暮らす。半壊状態だった自宅の建物を活用し、水産加工場を再建しつつある。

聞き手:吉野奈保子

特定非営利活動法人共存の森ネットワーク事務局長。東京農業大学農山村支援センター事務局次長兼務。

 



■ 岩手県大槌町吉里吉里

岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里
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